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生死の選択(令和4年9月)

J-style通信

 

 学生、教職員の皆様は、お元気でしょうか。9月も下旬に入るというのに、暑い日が続いています。また、日別の新型コロナ感染者数は、国内では、8月と比べれば、減っているようですが、しかし、9月18日のニュースでは、全国で6万4千人を超える新規感染者が出ているということですので、けっして安心できる状況ではありません。ときどき病院のお世話になっている私としては、健康であることが一番大事だとつくづく思います。お互い、健康でいられるように気をつけましょう。

 さて、先日、久しぶりに映画館で映画を観ました。「PLAN 75」という映画です。少子高齢化が進んだ日本を舞台に、75歳から生死を選択できる制度が国会で認められたという前提で描かれた物語です。主演は、映画「男はつらいよ」シリーズで妹のさくらを演じていた倍賞千恵子さんです。今年で81歳になるそうです。あの若くてしっかり者のさくらさんが、老体を晒し職も見つけられない姿を演じているのを見ると、役柄に応じた年齢で演じているとはいえ、俳優業ってすごい職業だなと改めて感じさせられます。

 最初の場面で、殺人の場面が描かれており、「えっ!? 上映するフィルムを間違えているのではないか」と思いましたが、この制度の導入のきっかけの出来事として描かれていたのでした。最後の夕日の場面では、映画のメッセージとしては、「PLAN 75」による死ではなく自然な死を肯定しようとしているのかと思いますし、自然な感情としては私も共感しますが、しかし、それでは社会問題としては解決しないというところが難しい。

私の場合、映画は娯楽として観ることが多いので、こうしたシリアスな問題を扱っている映画はあまり好きではありませんでした。しかし、今回、観ようと思ったのは、先に、村上陽一郎氏の本を2冊読んでいたからです。

 村上陽一郎氏は、科学哲学者で、私は学生の頃に、『新しい科学論―「事実」は理論をたおせるか―』(ブルーバックス・講談社)や、『神の意志の忖度に発す―科学史講義―』(朝日出版社)などを読み、宗教的な信念とのつながりで自然科学の勃興をとらえるような考え方に共鳴しましたし、科学史や科学哲学の基本的な考え方を彼の書物から学びました。その村上氏が、2018年に『〈死〉の臨床学ー超高齢社会における「生と死」ー』(新曜社)を、そして、2020年に『死ねない時代の哲学』(文春新書・文藝春秋社)を公刊し、死の問題を論じています。

 彼は、じつは、カトリック教徒としても知られています。が、そうした信仰を持ちながら、この死の問題については倫理の「唯一解」をあきらめようという趣旨のことを書いているのです。私は、カトリックの教義に反するようなこうした立場を批判したいわけではありません。むしろ、共感します。しかし、では「PLAN 75」で描かれたようなやり方もありなのかと問われると、悩んでしまいます。

 映画「PLAN 75」にしても、村上氏の書物にしても、ある種の問いが投げかけられているわけですが、おそらく正解を提示することはできないでしょう。社会問題の解決策としては、各人がどう考えるかを示して、多くの者が納得できる点を探り出し、制度化を図るしかないように思います。

 9月19日は敬老の日でした。国民の祝日に関する法律によれば、「多年にわたり社会につくしてきた老人を敬愛し、長寿を祝う」ことを趣旨としています。長寿であることはめでたいことですし、皆さんと共に祝いたいと思います。しかし、少子高齢化の問題は、解決策を考えなければならない社会問題です。これは、高齢者だけの問題ではありません。高齢者福祉にかかる経費は若者が負担することになるのですから、若い世代の皆さんにも、ぜひ考えてみていただきたいと思います。

 

 

令和4年9月21日
学長  林 泰成


このページは上越教育大学/広報課が管理しています。(最終更新:2022年12月26日)

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