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チャットGPTと学校教育(令和5年5月)


 新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。このJ-style通信では、学長からのメッセージをお送りします。本学の学生の皆さん、教職員の皆さんに向けてのメッセージですが、同時に、広く一般に公開させていただき、本学をPRしたいと考えています。

 さて、今年に入って、人工知能を使った対話型ソフト「チャットGPT」をめぐる報道が熱くなっています。開発企業の「オープンAI」が、このプロトタイプの「チャットボット」を公開したのは、2022年の11月ですから、あっという間に世界中に受け入れられ、そして、問題点もあるということで大騒ぎになっているのです。4月10日には、このソフトを開発した「オープンAI」のCEOであるアルトマン氏が、岸田総理と面談しました。総理が、ベンチャー企業の経営者と個人面談することは珍しいことのようで、マスコミでも報道されていました。また、「チャットGPT」をめぐる討論番組などもテレビ放映されています。また、イタリアでは、「チャットGPT」の利用禁止措置が取られましたが、その後、当局の求めに応じて改善策がとられたという理由で禁止措置が解除された、という報道が流れています。

 学部入学式の「告辞」でも触れましたが、この「チャットGPT」を使えば、学校で課せられるようなさまざまなレポート課題は、瞬時にして作成できます。たとえば、本を読んでいなくても読書感想文が書けてしまうというようなことも生じるかもしれません。こうした点が、学校教育との関連で話題になり、それでは困るから「禁止すべきだ」というような主張も出てきているのです。しかし、私は、個人的には、「便利なものが出てきたな」と思っています。スマホでも利用できますから、いろんなことを尋ねれば、何でも教えてくれます。優秀な教師がポケットの中にいるというような感じなのです。大学・大学院生の皆さんは、自分の能力を磨くのに有効に活用すればよいと私は思います。大事なのは使い方です。現状では、まだ誤った情報が混在することも多く、そのまま提出して大丈夫だとは言えないように思いますが、しかし、精度があがってくれば、たしかに、人が書いたのか「チャットGPT」で書いたのか、わからないような状況になるかもしれません。

 私は、こうした「チャットGPT」をめぐる議論を見聞きしながら、哲学者の今道友信氏が『エコエティカ』(講談社学術文庫、1990年)という書物の中で述べられていた行為の論理構造の逆転という話を思い出しました。古典的形態では、「Aが私に望ましい」というような目的の定立があって、それを実現するための手段が選ばれますが、現代的形態では、ある手段が先にあって、それをどう使うかということで目的が定立される、というような話です。今や私たち人類は、科学技術による巨大な力を手にしているわけですが、それを何のために使うかは私たちの判断次第なのです。今道氏は、わかりやすく説明するのに原爆の例などをあげていますが、この話は、「チャットGPT」にも当てはまるように思います。このように考えると、科学技術の進歩と同時に、人生の目的についての議論も進歩させていかなければならないのではないかという気がします。しかし、哲学や道徳教育論を専門としてきた私がこういうことを述べると、牽強付会とのそしりを受けることになるでしょうか。

 いずれにせよ、議論は、今しばらくは続くことでしょう。皆さんは、「チャットGPT」の利用についてどう考えますか。

 

令和5年5月1日
学長  林 泰成


このページは上越教育大学/広報課が管理しています。(最終更新:2023年05月01日)

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