時が経つのは早いもので、年が明けたのは私にはつい先日のことのように感じられますが、もうすぐ2か月が過ぎようとしています。年を取ると時間が過ぎるのを短く感じると言われていますから、私も年を取ったということでしかないのかもしれません。
この「主観的に記憶される年月の長さは年少者にはより長く、年長者にはより短く感じられる」という時間感覚に関しては、ジャネの法則(ジャネーの法則とも表記される)という名前が付けられています。フランスの心理学者のピエール・ジャネが、その著書の中で、叔父の哲学者ポール・ジャネの説として紹介して有名になったようです。
古代の神学者でもあり哲学者でもあったアウグスティヌスは、「私はそれ(時間)について尋ねられないとき、それが何かを知っているが、尋ねられるとき、知らない」と『告白』(岩波文庫)で述べています。私たちの日常的な時間感覚は常識的な範囲ではうまく機能しているように思うのですが、時間とは何かと問われると説明のしようがないと私も思います。
19世紀のイギリスの哲学者ジョン・マクタガートは、「時間の非実在性」という論文を書きました(日本では、註解と論評付きの翻訳『時間の非実在性』(講談社学術文庫)が出ています)。イタリアのカルロ・ロヴェッリという現代の物理学者も『時間は存在しない』(NHK出版)という本を書いています。専門分野の異なる二人の碩学から「存在しない」と言われるとそうなのかとも思います。しかし、存在しないと言われても、過去から未来へと進む時間の流れという常識的な時間感覚を私たちは持ち合わせているわけですが、どうとらえたらよいのでしょうか。時間については、さまざまな学問領域で論じられていますが、なかなか論じるのが難しい概念だと言えるのかもしれません。
さて、時の流れにまつわることわざもたくさんあります。「少年老いやすく学なりがたし」ということわざは、学生の皆さんにお勧めしたいと思いますが、「そんなことわかっているよ」と返事が返ってくるかもしれません。でも、この年齢になると、あれもこれも学んでおけばよかったと思うことが、思いの外たくさんあります。
「石の上にも三年」ということわざは、忍耐強く努力し続けることを謳っています。あれもこれも学ぶというよりも、一つのことをきちんと成し遂げることの重要性を示しています。これに対して、パナソニックの創始者松下幸之助は、「石の上にも三年という。しかし、三年を一年で習得する努力を怠ってはならない」と言ったそうです。彼の主張は、三年分を一年で習得する努力をし続けて、ようやく三年で習得できるということです。平凡より上の境遇を得たいならそれだけの努力をしなさい、ということです。
とくに今年度末に卒業・修了する皆さんにとって、この2年間、3年間、4年間は、どうだったでしょうか。そうした努力を続けて、学びを深めることができたでしょうか。できていなかったとしても、後悔するには及びません。過去の事実は変えられませんが、時間の矢は、現在から未来へと流れています。「やればできる!」(これはティモンディの高岸宏行の言葉)という強い思いをもって、これから頑張っていきましょう。
令和5年2月24日
学長 林 泰成
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